AI エージェント活用最新レポート
- info814005
- 11月29日
- 読了時間: 8分
From コンサルティング事業部
先月(10月)幕張メッセにて開催されたサイボウズデイズ「ノーコードAI ランド」、DX 総合EXPO 2025 の展示会に行ってきました。
やはりAI に関するシステムやソリューションが多数あり、その中で特に「AI エージェント」という自立型・対話型AI システムについて今後私たちのビジネススタイルが大きく変わっていくのではないだろうか、と感じました。 生成AI の進化に伴い、「AI エージェント」は一気に脚光を浴びる存在になりました。人と自然に会話しながら業務を進められるこの仕組みは、もはや近未来のアイデアではありません。米国ではすでに、採用・営業・カスタマーサポートなどの現場で実装が進み、日々のオペレーションに根づき始めています。
一方で日本では、概念への認知や導入の理解が十分とは言えず、世界の動きに対して一歩遅れつつあるのも事実です。新技術に慎重であること自体は健全ですが、リスクを過度に恐れて検証や小規模導入すら進まない状態は、結果的に競争力をそぐ“大きなリスク” にもなり得ます。いま求められているのは、「試す → 学ぶ →拡げる」という段階的なアプローチで、実務価値を確かめながら自社に合う形で活用を進める姿勢です。
AI エージェントとは︖
AI エージェントとは、人間の手を煩わせずに仕事を進める“自律型・対話型” のAI システムです。
核になるのは三つの性質。第一にゴール指向──与えられた目的に向かって手順を自分で組み立て、主体的に動きます。第二に対話能力──人や他のAI と自然にやり取りし、状況に応じて振る舞いを変えられます。第三に外部ツール連携──業務システムやアプリ、データベースとつながり、現状確認から指示の実行までを一気通貫でこなします。
生成AI の進化により、こうしたエージェントはすでに実用段階に入りました。
ChatGPT や Claude に代表される大規模言語モデルを土台に、複数ステップの業務を理解・分解し、自動で操作します。たとえば「請求書の内容チェック→承認依頼の送付→結果通知メール」といった一連の流れを、人が介在せずに回せるようになっています。
とりわけ米国では導入が加速し、採用・営業・カスタマーサポートなど人手依存が大きい領域で、“会話しながら働くAI” が現場を支え始めました。最近は「AI 上司」、「AI 交渉担当」といった、これまで想像しづらかった役割まで登場し、組織のあり方そのものを変え得る存在として注目を集めています。
要するにAI エージェントは、話して理解し、つなげて動く――そんな新しい“同僚” です。

どのような領域で活用されているのか︖
米国企業では、AI エージェントの活用が部門横断で進み、とりわけ「採用」「営業」「顧客対応」で存在感を高め
ています。いずれも人手に依存しがちで業務量が多く、定型処理が混ざるため、自律的に動けるAI との相性が良い領域です。
採用では、応募者への初期対応や面接日程の調整、情報の収集と整理をAI が担うケースが拡大しています。チャットで応募者一人ひとりに必要事項を聞き取り、条件適合もある程度ふるい分ける。結果として、応募者は手間が減り、企業は処理速度が上がる。人事担当者は面接や評価といった“人ならでは” の判断に集中できるようになります。
営業の現場でも、見込み顧客への初動対応、フォロー、資料送付、興味喚起といった日々の細かなタスクをAI が肩代わりしています。メールやチャットで文脈を理解した自然なやり取りが可能になり、反応のあった有望顧客のみを担当者に引き継ぐ運用が一般化。リード育成を自動化しつつ、営業は確度の高い商談に集中でき、活動の質と効率を同時に引き上げます。
顧客対応では、従来のFAQ 型ボットの限界を超え、アカウント設定、返品手続き、技術的トラブルの一次切り分
けなど、ある程度複雑な問い合わせにもAI が応対できるようになりました。一次対応をAI が担うことで、オペレーターの負荷や待ち時間が大幅に軽減され、顧客満足度の底上げにもつながっています。
さらに最近は、活用領域が「マネジメント支援」や「交渉代行」にまで広がっています。たとえば、部下の進捗
やコンディションを把握してフィードバックを返す“AI 上司” の試みや、サブスク解約交渉・請求額の減額交渉
といった対話的業務の代行など、「人間でなければ難しい」とされてきた分野にも変化が生まれています。
要するに、AI エージェントは現場の“細かな繋ぎ” を的確に引き受け、人が本来注力すべき創造的・判断的な仕
事へ時間を戻してくれる存在として、実務の中心へと近づいています。
具体的な活用事例
次に、米国企業では具体的にどのように AI エージェントが活用されているのか、まずは営業で利用されている顧客対応の領域について見ていきましょう
エプソン・アメリカは、AI エージェントで営業の 初速 を上げた
展示会やWeb から生まれる大量リードに対し、AI エージェントが“初期接点~温度判定~アポ化” を自動化。営業は「今話すべき相手」に集中し、反応率や商談化率を底上げする仕組みです。
なぜ AI エージェント︖(背景)
エプソン・アメリカでは、展示会・フォーム・資料DL などから年数万件規模の見込み客が流入。全件に人手で素早くフォローするのは現実的ではありません。そこで、一次接触のスピードと継続フォローの粘り強さをAI に担わせ、商談化の前段階を“止めない” 体制を作りました。
仕組み(何をしているか)
即時接触︓流入直後にお礼+用途確認の短いメッセージを自動送信。
対話で温度判定︓導入時期・予算感・決裁関与などを自然な問いで収集。
粘り強い再接触︓反応が薄い相手にも、時間・頻度・トーンを最適化してリマインド。
アポ化と引き渡し︓希望が見えたら日程調整まで支援し、CRM に履歴を記録して営業へ。

展示会やWeb から入った名刺や問い合わせは、まずMA/CRM に自動で整流される。
登録の直後、AI は礼と一問だけの短いメッセージを秒単位で送り、反応に応じて問いの深さや間隔、トーンを滑
らかに変える。
ここで相手の熱が冷める前に“最初の一往復” を落とさないのが肝だ。
会話が続けば、導入時期や決裁関与、予算感が自然に引き出され、“今話すべき相手(CQL)” が浮かび上がる。
未成熟な層は負担をかけず保温し、頃合いを見て軽く再訪問する。
CQL へ育ったら、要点サマリーが自動でCRM にまとまり、営業へ静かにバトンが渡る。
休眠リードも、季節要因や用途仮説を添えたやさしい一文で動くことがある。
人の粘り強さを仕組みとして持続させること――それをAI が実装している。
初回反応率の改善(スピード接触+継続フォロー)
MQL/CQL の増加(“温度の高い層” を抜き出す)
営業の生産性向上(対話ログが自動記録され準備が早い)
AI エージェントは 秒で届く一言 と 粘り強い再接触 で反応率を押し上げ、会話の中から「今話すべき見込み客
(MQL/CQL)」をきちんと抜き出す。
しかも対話ログは自動要約で一望できるから、初回面談の準備が驚くほど速い。
Conversica のLLM 対話は定型文の壁を越え、相手の返答に合わせて将来の接点まで設計してくれ結果として、AI エージェントが支える“即応・選別・記録・継続” の四拍子が、エプソン・アメリカの営業現場にリズムを作った。
Salesforce などの CRM と連動でリードの状態や接点履歴を参照しつつ、最適なタイミングでフォローを実行し
ます。
エージェントによるすべてのコミュニケーションはログ化され、営業チームが後から確認・引き継ぎしやすい運
用になっているのです。
AI 上司がやってくる︕
次に、まだ実験段階であるものの、注目される領域とその事例について、いくつか見ていきたいと思います。
「AI 上司」が変えるマネジメントの当たり前
PeopleX「AI 上司」がつくる“観察と示唆” のマネジメント
「資料づくりと確認に追われ、肝心の対話に時間が割けない」——多くの現場から聞こえる声だ。
プレイングマネージャーの負荷増、若手の管理職志向の低下、属人化した評価運用…。
PeopleX は、こうした構造的な行き詰まりに対し、AI 上司という切り口で実証を進めている。
PeopleXの挑戦︓AI が “観察と示唆” を担う
狙いは単純だが深い。業務の進捗やコンディションを可視化し、必要な示唆をその場で返す。つまり、人がやっ
てきた「把握→気づき→指摘」の一部をAI が肩代わりして、上司は対話と意思決定に集中できるようにするのである。
進捗の自動トラッキング
週次で遅延や偏りを検知して上長に通知。口頭確認や日報頼みの抜け漏れを防ぐ。
モチベーション/メンタルの兆候検知
行動ログや入力傾向からストレスや意欲の変化をスコア化。早めの声がけや負荷調整につなげる。
1on1 の下ごしらえ
直近の出来事と論点を自動要約し、質問例まで提示。形骸化しがちな面談を実のある時間へ。
評価用ログの整理
日々の成果と成長記録を時系列で蓄積・要約。期末に“探す作業” をなくし、納得感のある評価を助ける。
こうした方向性は、国内メディアの紹介でも「管理職の仕事を減らし、育成に貢献」と位置づけられている。
人手だけで全員の進捗・負荷・感情の揺れを追い切るのは難しい。チェックは遅れ、判断は主観に寄り、面談は準備不足に陥りがちだ。AI が“事実” を整えてくれるなら、上司は「人を見る」ことに時間を配分できる。
AI は上司の代わりに評価を下す“判定者” ではなく、事実を整え、次の一手を促す“参謀” だ。
PeopleX の実証が示すのは、テクノロジーで管理を強めるのではなく、人間的なマネジメントを取り戻す道がある、ということなのかもしれない。
最後に
本稿で取り上げた事例が示すように、米国ではAI エージェントがすでに現場に根づき、採用・営業・顧客対応を
中心に業務の生産性と品質を引き上げています。一方の日本は、生成AI / AI エージェントの導入に慎重な姿勢が残り、活用面で世界との差が広がりかねません。いまや生成AI は「試してみる」段階ではなく、事業成果へ直結させる段階です。意思決定やマネジメント、社外コミュニケーションまで含めてAI 前提の運用へ移行することが、日本企業にとって喫緊の課題と言えるでしょう。


