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なぜ初対面なのに「お世話になっております」?

  • 2 分前
  • 読了時間: 8分

――何気なく使っているビジネス日本語を考えてみた



メールを開いて、最初に入力する言葉。

「お世話になっております。」

仕事をしている人なら、ほとんど毎日のように使っているのではないでしょうか。

ところが、改めて考えてみると少し不思議な言葉です。

初めてメールを送る相手。一度も会ったことがない相手。もちろん、その人に何かをしてもらった記憶もない。

それなのに、

「お世話になっております。」

と言います。

若い世代から、

「会ったこともないのに、どうして『お世話になっております』なんですか?」

と聞かれたら、皆さんならどう答えるでしょうか。

言われてみれば、確かにその通りですよね。

「私」と「あなた」ではなく、「会社」と「会社」のあいさつ

この疑問を考えるうえで面白いのが、日本のビジネスでは必ずしも「私」と「あなた」だけで会話をしているわけではない、ということです。

例えば、A社の新人社員が、取引先であるB社の担当者へ初めてメールを送るとします。

二人は一度も会ったことがありません。

しかし、

A社とB社は以前から取引をしている。

A社の営業担当者がB社に商品を納めているかもしれませんし、B社の担当者がA社の別の社員と何度も打ち合わせをしているかもしれません。

つまり、

「私はあなたと初対面ですが、私たちの会社は、あなたの会社と以前から関係があります」

という背景があります。

「お世話になっております」には、こうした会社と会社の関係そのものに対する感謝や敬意が含まれているわけです。

普段何気なく使っていますが、考えてみるとなかなか奥深い日本語です。

では、初めて取引する会社には?

ここで、もう一つ疑問が出てきます。

会社同士もまったく初めてだったらどうするのでしょう?

この場合でも、実際のビジネスメールでは「お世話になっております」と書くことがあります。

間違いというわけではありません。

ただ、状況によっては、

「突然のご連絡失礼いたします」

「このたび○○様よりご紹介いただき、ご連絡いたしました」

「お問い合わせいただき、ありがとうございます」

など、なぜ連絡したのかが伝わる言葉から始めたほうが自然な場合があります。

大切なのは、

「ビジネスメールだから、とりあえず『お世話になっております』」

と機械的に考えないことなのかもしれません。

個人のお客様にも「お世話になっております」でいい?

さらに考えたいのが、企業ではなく一般のお客様とのコミュニケーションです。

例えばインターネットサービスを利用しているお客様から問い合わせが来たとします。

A

「お世話になっております。お問い合わせいただきました件について回答いたします。」

もちろん間違いではありません。

しかし、

B

「いつも弊社サービスをご利用いただき、ありがとうございます。お問い合わせいただきました件についてご案内いたします。」

ではどうでしょう。

後者のほうが、

「自分に向けて話してくれている」

という印象を受ける人も多いのではないでしょうか。

ほかにも、

「お問い合わせいただき、ありがとうございます」

「長くご利用いただき、ありがとうございます」

「先日はお電話いただき、ありがとうございました」

など、相手との関係に合わせた一言を入れることができます。

ほんの少し言葉を変えるだけですが、受け取る印象は大きく変わります。

「弊社」も、実は少し硬い?

ビジネスで当たり前に使うもう一つの言葉が、

「弊社」

です。

「弊社では、このようなサービスをご提供しております」

企業同士のやり取りなら、ごく自然な表現です。

しかし、一般のお客様との会話では少し硬く感じられる場合があります。

例えば、

「弊社では対応いたしかねます」

と言われるのと、

「申し訳ございませんが、私どもでは対応することができません」

と言われるのでは、受ける印象が少し違います。

言っている内容はほぼ同じです。

それでも後者のほうが、少し人の温度を感じませんか?

正しい日本語を使うことと、相手が心地よく受け取れる日本語を使うことは、必ずしも同じではない。

ここがコミュニケーションの面白いところです。

「正しい敬語」より「相手にどう伝わるか」

ビジネスマナーというと、

「この敬語は正しい」

「これは間違い」

という話になりがちです。

もちろん、最低限の言葉遣いは必要です。

しかし、本来の目的は敬語のテストで100点を取ることではありません。

相手との関係を良くすることです。

例えば、お客様からトラブルの連絡が来たとします。

そんなときに、

「平素より格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます」

という完璧な文章から始まっていたらどうでしょう。

文法的には丁寧です。

しかし、お客様は、

「いや、それより早く困っていることを聞いてほしい」

と思うかもしれません。

場合によっては、

「ご不便をおかけして申し訳ございません。状況を確認いたします。」

のほうが、はるかに相手に伝わります。

つまり重要なのは、

「何を言うのが正しいか」ではなく、「今、この人に何を伝えるべきか」

なのです。

メール、LINE、チャット――仕事の会話は変わってきた

少し前まで、仕事上の文章といえばメールが中心でした。

しかし現在は、

メール、LINE、ビジネスチャット、Webフォーム、SNS、SMSなど、コミュニケーション手段が増えています。

メールなら、

「いつもお世話になっております。○○株式会社の○○です。」

でも自然です。

ところが、チャットで毎回、

「いつも大変お世話になっております。株式会社○○の○○でございます。」

から始まったら、少し堅苦しく感じます。

逆に、初めての取引先へのメールを、

「了解です!よろしくお願いします!」

だけで返したら、相手によっては不安を感じるでしょう。

つまり現代では、

「誰に」「何を」「どの手段で伝えるのか」

まで考えて言葉を選ぶ必要があります。

そして今は「AIが文章を書く時代」

ここ数年でもう一つ大きく変わったことがあります。

ChatGPTをはじめとする生成AIによって、誰でも簡単にビジネス文章を作れるようになりました。

例えばAIに、

「取引先への丁寧なメールを書いて」

と頼めば、数秒で立派な文章を作ってくれます。

非常に便利です。

一方で、AIが作った文章をそのまま使うと、

丁寧だけれど、どこか機械的

になってしまうこともあります。

なぜでしょうか。

AIは「一般的に失礼にならない文章」を作るのは得意ですが、

「このお客様とは10年来の付き合い」

「昨日、電話で長く相談した」

「かなり困って問い合わせをしてきた」

「今回初めて問い合わせをしてくれた」

といった相手との関係性を知らなければ、それを文章に反映できないからです。

だからAI時代には、文章を作る能力以上に、

「相手との関係や状況をAIに正しく伝える能力」

が重要になってくるでしょう。

たった一文で「テンプレート」が「自分の言葉」になる

ビジネスメールは、ある程度テンプレート化して構いません。

毎回ゼロから考えていたら仕事になりません。

ただし、そこに一文だけでも「その人のための言葉」を加えてみてはいかがでしょう。

例えば、

「昨日はお忙しいところ、お電話で詳しくご説明いただきありがとうございました。」

「先日は弊社までお越しいただき、ありがとうございました。」

「長年弊社サービスをご利用いただき、本当にありがとうございます。」

「先ほどはお問い合わせいただき、ありがとうございました。」

この一文があるだけで、

「誰にでも送っているメール」から「あなたに送っているメール」へ変わります。

メールだけではありません。

電話でも、チャットでも、対面でも同じです。

人は、自分に向けられた言葉だと感じると、相手に対する印象が変わります。

「お世話になっております」はなくなるのか?

では今後、「お世話になっております」という言葉は古くなり、使われなくなるのでしょうか。

おそらく、すぐになくなることはないでしょう。

とても便利ですし、会社同士の関係に敬意を示す、日本のビジネス文化に根付いた表現だからです。

ただ、

「とりあえず書いておけばいい言葉」から、「相手によって使い分ける言葉」へ

少しずつ変わっていくのではないでしょうか。

メールなら「お世話になっております」。

チャットなら「ありがとうございます」。

問い合わせへの返信なら「お問い合わせありがとうございます」。

トラブル対応なら「ご不便をおかけして申し訳ございません」。

初めての連絡なら「突然のご連絡失礼いたします」。

大切なのは決まり文句そのものではありません。

相手が今、どんな状況なのかを想像すること。

そこから言葉を選ぶことです。

ITが進化しても、最後に届くのは「言葉」

私たちは今、便利な時代に生きています。

メールは一瞬で届き、チャットならリアルタイムで会話でき、生成AIなら数秒で文章を作ってくれます。

これからAIがさらに進化すれば、お客様へのメール返信をAIが自動で作成することも、ごく普通になっていくでしょう。

しかし、どれだけ技術が進化しても、その画面の向こう側にいるのはです。

だからこそ、

「この文章を受け取った人はどう感じるだろう?」

と考えることの価値は、むしろこれから大きくなるのかもしれません。

「お世話になっております。」

毎日のように使っている、たった一言。

でも、その意味を改めて考えてみると、

ビジネスコミュニケーションで本当に大切なのは、正しい言葉を並べることではなく、相手を想像して言葉を選ぶこと

なのだと気づかされます。

明日メールを書くとき、いつもの「お世話になっております」を入力する前に、ほんの一秒だけ、

「この人には、どんな一言から始めるのが一番いいだろう?」

と考えてみる。

そんな小さな「気づかい」が、お客様や取引先との良い関係につながっていくのではないでしょうか。

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