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売れない色には、ちゃんと役割がある?

ユニクロに学ぶ「捨て色マーケティング」

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明後日、出張に行くため近くのイオンライカムのユニクロへ冬服を買いに行ってきました。  ユニクロやGUに行くと、黒・白・ベージュといった無難な色の服の横に、ぱっと目を引く赤や青、黄色、紫の服が並んでいるのを見かけませんか?「この色、本当に売れるのかな?」と思うような派手なピンクやオレンジも、たまに陳列されています。

 しかも、しばらくするとその“派手色”だけ値下げされてワゴンに入っていたりします。一見すると「売れ残り」ですが、実はこれらの色には、ちゃんとした“戦略的な役割”があります。アパレル業界では、こうした売れにくい色を「捨て色(すていろ)」と呼びます。

「捨て色」とは? ただの“売れない色”ではない

捨て色とは、その色自体がたくさん売れることを期待しているわけではなく、「ほかの売れ筋カラーを引き立てるため」にあえて投入される色のことです。

もしラックに「黒」しかなければ、お客様の頭の中では

この服を買うか、買わないかという二択の判断になります。

ところが、黒・白・ベージュと3色並ぶと、

どの色にしようかな?と、“買う前提”での比較が始まります。

さらに、そこに赤や青といった少し奇抜な色が一緒に並ぶと、黒や白、ベージュといった無難な色が「安心して選べる色」として、より魅力的に見えてきます。

つまり、あえて売れなさそうな色を混ぜることで、売れ筋カラーの魅力を強調し、選択を後押ししているのです。

捨て色が果たしている3つの役割

色彩心理と消費行動の視点から見ると、捨て色には次のような目的があります。

① 人気色を引き立てる“引き立て役”

中間的な色や、好みが分かれやすい色をそっと並べることで、ベーシックなカラーが「より安心して選べる色」として際立ちます。舞台でいえば、主役(黒・白・ベージュ)を目立たせるための“名脇役”が捨て色です。

② 相対比較で「選びやすさ」をつくる

人は絶対評価よりも相対評価で物事を判断すると言われています。少し極端な色を隣に置くと、普通の色が「無難で安心」「ちょうどいい」に見えてきます。

行動経済学者ダン・アリエリーの『予想どおりに不合理』でも、選択肢の出し方ひとつで、人の判断が大きく変わることが紹介されています。捨て色はまさに、この「相対的な価値」を巧みに利用した手法といえます。

③ 話題づくり・限定感の演出

「え、こんな色あるんだ!」という少し攻めたカラーは、SNSで話題になったり、「限定色」「シーズンカラー」としてコミュニケーションのきっかけにもなります。結果としてブランドの世界観を広げたり、店舗や商品の“覚えてもらいやすさ”につながります。

事例:ソフトバンクの多色展開ケータイ

過去には、ソフトバンクが低価格の携帯電話を多色展開した際にも、似たような戦略が用いられていたと言われています。

あえて「選ばれにくい色」をラインナップに含めることで、人気色の購買率が上がった、という販売戦略上のエピソードがあります(公式データは非公開ながら、マーケティングの一例としてよく語られます)。

ここでもやはり、「すべての色を同じように売る」のではなく、全体の売れ方を最適化するための色配置が重要な役割を果たしています。

囲碁の「捨て石」から生まれた発想

「捨て色」という言葉は、囲碁用語の「捨て石」に由来するとされています。

囲碁では、あえて一部の石を犠牲にすることで、盤面全体の有利な流れをつくる戦術があります。目先の1手では損をしているように見えても、長期的には大きな得につながる考え方です。

これを商品展開やカラーバリエーションに応用したのが、「捨て色マーケティング」です。“全部を売りにいく”のではなく、“全体として一番おいしい形をつくる”ための色。 それが捨て色なのです。

これからは「AIが選ぶ色」の時代へ?

最近では、パッケージデザインやWebバナー、チラシの配色パターンを、AIで事前にテストする事例も増えています。

たとえば、

  • どの色の組み合わせがクリック率を高めるか

  • どの配色だと「安さ」「安心感」「高級感」が伝わるか

  • 捨て色を入れたほうが売れ筋カラーが選ばれやすいか

こうしたことを、実際のユーザーデータを元にシミュレーションし、最適な「売れる色・引き立てる色」の組み合わせをAIが提案するような世界が現実になりつつあります。

私たちのビジネスへのヒント

この「捨て色」の発想は、アパレルだけの話ではありません。

たとえば、

  • チラシやポスターの配色

  • ホームページのボタン色・背景色

  • プラン比較表のレイアウト

  • パンフレットの帯や見出しのカラー

などでも応用できます。

「とりあえず無難な色だけでまとめる」のではなく、あえて1色だけ印象に残る“攻め色”を入れてみることで、

  • メインカラーの安心感を高める

  • お客様の視線を誘導する

  • 「どれを選べばいいか」を直感的に伝える

といった効果が期待できます。

おわりに:色を“なんとなく”選ばない

色は、商品やサービスの「第一印象」を左右する、とても強力な要素です。今回ご紹介した「捨て色」の考え方は、

・全部売るための色ではなく、・“売れる色をもっと売る”ための戦略的な色

という視点を教えてくれます。

これからチラシやWebサイト、キャンペーンページなどを企画する際には、「この色は何の役割を持たせるのか?」「どの色を“主役”にして、どの色を“捨て色”として使うのか?」

そんな問いを一度立ち止まって考えてみると、デザインや販促の精度が一段アップするはずです。

次回、社内で色を決める場面があったら、ぜひ「捨て色、どれにする?」という会話もしてみてください。きっと、これまでとは違う視点で商品やツールを見られるようになります。

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